【軌道力学入門】摂動【番外編】

摂動を考慮した場合の軌道解析の基礎的な問題としてあげられるのが軌道伝播の問題である.

摂動解析の方法

摂動の解析には以下の三つの主要な方法があります．

• 解析的方法(analytical method)：軌道要素を時間関数で展開し，任意の時刻での摂動を計算します．一般摂動法(general perturbation)がこのカテゴリに入ります．
• 数値的方法(numerical method)：運動方程式を数値的に解くことで，高精度の軌道を生成します．特別摂動法(special perturbation)がここに該当します．
• 準解析的方法(semianalytical method)：解析的と数値的手法の良い点を組み合わせた方法です．周期的な摂動を平均化して無視し，主に平均近点角を使用します．

一般摂動法では，摂動を元期における軌道要素で時間関数において展開しておいて，任意の時刻の摂動を計算するものであり，特別摂動法に比べ計算時間は短くなるが，精密な軌道を計算しようとすると摂動の時間関数展開が非常に複雑かつ困難になる.特別摂動法は，軌道生成の各時間ステップで各摂動力の大きさを適当なモデル，アルゴリズムで計算し，これを衛星の運動を表す運動方程式に代入して，運動方程式を数値的に時間積分することによって軌道生成を行うもので，高精度の軌道生成が可能である.

準解析的手法においては，主に平均近点角を用いた平均化を行う.　そのため，短周期摂動は無視できる特徴がある.

摂動の数学的表現とその応用

宇宙機位置における地球の重力ポテンシャル は，その点の球座標で次のように球面調和関数によって展開表示される．

(1)  

は地球の重力定数, は原点から宇宙機までの距離, は宇宙機の地心緯度(geocentric latitude), は経度(right ascension), は地球の平均赤道半径, はルジャンドルの多項式, はルジャンドルの陪関数，は無次元係数である．特に第一項は理想２体問題のポテンシャル関数である．加速度は，太陽や月による重力，太陽光による太陽輻射圧，宇宙機からの漏出ガスによる力，地球の潮汐力，軌道変更時のスラスタ推力などの摂動力で生じる．

は地球の質量分布および形状に関連する．Tableに地球の場合の無次元係数の値を示す．これらは，米国の周回衛星（TOPEX/Poseidon）などの軌道摂動計測データ，海洋表面硬度測距データおよび地上重力計測データをもとに推定されたNASAのJGM-2（Joint Gravity Models-2）モデルから抜粋されたものである．

地球が自転軸に対象な回転楕円体であると仮定する．を含む項までの重力ポテンシャルの式は，

(2)  

ここで，球面三角法の正弦定理より, となることを用いて式変形すると，

(3)  

を代入し，加法定理により展開を行い，平均化を行うと，

(4)  

が得られる．この式は，順解析的手法による軌道伝播計算に用いられる．