宇宙初心者のための宇宙工学入門 第2弾の今回は,
飛行機が飛ぶ原理
について簡単にご紹介します.
飛行機の歴史は100年ちょっとです.たった100年で,ここまで安価に高速かつ安全に飛んでいるのだから驚きです.
(Boieing 777,http://www.wikiwand.com/ja/ボーイング777より)
宇宙工学なのに飛行機?って思われましたでしょうか?
いえいえ,飛行機なしに宇宙開発は語れません.
分かりやすいところでいえば,スペースシャトルにはデルタ翼という翼がついています.スペースシャトルが宇宙から地球に帰還するためには,この翼は必要なわけです.そこに飛行機が飛ぶ原理が隠れています.
けれどもよく考えてみると,宇宙でのみ活動する衛星などは翼を持っていません(翼のように見えるパネルは付いていますが笑).
同じように「飛んでいる」のに翼は必要ないのでしょうか?
そもそも
「飛ぶ」
とはどういうことでしょうか?
僕が思うに,
「十分に長い時間,空で高さを維持していること」
です.
十分に長い時間というのがかなり曖昧でよろしくないですが,こと飛行機に関しては,短くても小1時間,長ければ,十何時間「空で高さを維持」できています.
まあ落ちてこないってことですよね.
落ちないのはなぜですか?
りんごが落ちるのは重力が働くからですよね?
では飛行機には重力は働いていないのでしょうか?
いえ,もちろん働いています.
そう,飛行機には,重力のかかる向きとは反対の向きに力が働いているんです.
これを「揚力(Lift)」と言います.
(飛行機に働く力)
この揚力と重力(自重)が釣り合う(もしくは揚力の方が強くなる)ことによって,飛行機は落ちることなく,上空で高さを維持できる訳です.
ですが,この揚力はどうして働くのでしょうか?
この答えは先ほどの「どうして,地球で飛ぶには翼が必要で,宇宙では必要ないのか」という問いの答えにもなります.
それは
空気の存在
です
この空気の流れが最大のポイントで,翼が存在することによって,上面下面に流れの速さに差が生まれ,圧力に差が生じます.このことが揚力を発生させる要因になっているんです.
したがって,この空気の流れの方向を変え,速度および圧力に差を生むため,
「翼」
が必要になります.
翼が空気の流れを変えることによって,空気は下向きの運動量を与えられており,その反作用によって翼は上向きに力を受けていることが推察されます.
(追記: ただし,この作用・反作用の法則による説明は高高度の空気密度の低い場合に完全に正確です.揚力の存在を分かりやすくするために,上記の説明をしています.旅客機などが実際に揚力を発生する原理は,翼の上面下面に沿って空気の流れが存在していることが重要で,もう少し難しいです!あとで説明します! )
すなわち,
飛行機は空気があるところでしか飛べない
(ヘリコプターなどもプロペラという名の翼を持っていて,翼に空気が当たることで飛んでいます.)
つまり,飛行機が飛ぶには,空気と翼が必要になるんです!
そして,気づいた方もいると思いますが,この翼,ただの板ではないんです.先ほどの図の断面を見ていただくと,
前の縁(前縁[ぜんえん]と言います)の方がすごく厚みがあって,カーブを描いていますよね?
この形にすることで,翼を傾けなくとも,圧力に差が生まれる上に,より効率良く上面の流れを加速し,圧力差を大きくすることができます.
この形こそが最大限に揚力を生み出すことのできる形で,翼型と呼んでいます.
もちろん飛ぶ高度やスピード・その飛行機を飛ばすの目的などによって微妙に違った形になりますが,旅客機などの速すぎない飛行機にはこの形が最適です.
音速を超える戦闘機などの飛行機の場合ではまた違った形になります.その話はまた今度.
ここまで触れていませんでしたが,翼周りに空気の流れを生むためには前に進む必要があります.
空気の流れがなければ揚力は発生しませんから,推力を持っていることも飛行機が飛ぶために必要なことです.
ただ目的地にたどり着くためでなく,「飛ぶ」ためにもエンジンは必須なんです.
また,空気にぶつかられると,揚力が発生して嬉しいですが,当然ながら進行方向後ろ向きの力もかかってしまいます.
これを抗力と呼んでいて,この抗力以上の推力を発揮し前進するためにもエンジンは大切です.
重力・揚力・推力・抗力,これら4つの力の絶妙なバランスで飛行機は「飛んでいる」んです.
まとめ
- 空気がないと飛行機は飛べない!
- 翼の形も工夫されている!
- 推力も飛行機には必要!
- 4つの力の絶妙なバランス!
今回は,飛行機が飛ぶ原理についてすごく簡単にお話しました.数式をこねくりまわすのも悪くないですが,こういうふうに定性的な理解を持っておくのも大切ですよね.
ここからちょっと難しいです!数式やだーって方は無理なさらず!
2/18追記:
知識のある方に痛いところをつかれてしまったので,追記です!
コメントありがとうございました!
といいますのも,
揚力の発生原理について,
「循環」が存在するから
というものが正しい
とコメントいただきました.
クッタ・ジュウコフスキーの定理のことをさしておられることはすぐに分かりました笑
確かにこの話が最も正しいです.(じゃあそれを書け笑)
しかし上記では,ニュートンの第3法則から,揚力の存在が推測できるということを述べていて,そのことはNASAのページにも記述があります.
しかしながら揚力の大きさを見積もることができなければ工学的に意味がありません.その点でこの定理は役に立ちます.
話を簡単にしたいと思っていたので数式などを用いず,定理がうんぬんなどという話はしたくなかったので避けました.
上面下面の流速に違いが出る理由はこの「循環」を考慮しないと説明できないです.
クッタ・ジュウコフスキーの定理というのは,
一様流中の二次元の柱に対して理論的に揚力の存在を述べたもので,
円柱の周囲の圧力を積分計算することによって,上向きの力すなわち揚力が
で表されることと
水平方向の力.抗力が
で表されることを述べたものです.
この循環は,ある閉曲線に沿ってその方向の速度成分を一周積分した値で,いわゆる「渦」に関係があります.この循環の値が0ならば揚力は発生しないということで,揚力を受ける翼周りには必ず循環の存在が必要になるのです.
そしてこの定理の素晴らしいことは,揚力の大きさを計算できることです.
複素数を用いて,ジュウコフスキー変換という変換を円に適用することで,翼型に良く似た形状を複素平面上に表せます.したがって,円柱だけでなく,実際の翼型に対しても,この手法で揚力が計算できるんです.
もうひとつ付け加えておくと,数学的には,循環の値はこのままでは決定できません.この循環を決定するために,クッタの条件というものを用います.
これは,流れが翼の後縁で接して離れるという条件のことで,現実の流れにおいては,そのような条件でしか流れないであろうというものです.
後縁において流速が有限であるという数学的な条件を付与することで,循環を決定することができます.循環が決定できれば,揚力も決定できるわけです!
参考までにNASAのページを!
Lift is the force that directly opposes the weight of an airplane and holds the airplane in the air. Lift is generated by every part of the airplane, but most of the lift on a normal airliner is generated by the wings. Lift is a mechanical aerodynamic force produced by the motion of the airplane through the air. Because lift is a force, it is a vector quantity, having both a magnitude and a direction associated with it. Lift acts through the center of pressure of the object and is directed perpendicular to the flow direction. There are several factors which affect the magnitude of lift.
HOW IS LIFT GENERATED?
There are many explanations for the generation of lift found in encyclopedias, in basic physics textbooks, and on Web sites. Unfortunately, many of the explanations are misleading and incorrect. Theories on the generation of lift have become a source of great controversy and a topic for heated arguments.
Lift occurs when a moving flow of gas is turned by a solid object. The flow is turned in one direction, and the lift is generated in the opposite direction, according to Newton’s Third Law of action and reaction. Because air is a gas and the molecules are free to move about, any solid surface can deflect a flow. For an aircraft wing, both the upper and lower surfaces contribute to the flow turning. Neglecting the upper surface‘s part in turning the flow leads to an incorrect theory of lift.
NO FLUID, NO LIFT
Lift is a mechanical force. It is generated by the interaction and contact of a solid body with a fluid (liquid or gas). It is not generated by a force field, in the sense of a gravitational field,or an electromagnetic field, where one object can affect another object without being in physical contact. For lift to be generated, the solid body must be in contact with the fluid: no fluid, no lift. The Space Shuttle does not stay in space because of lift from its wings but because of orbital mechanics related to its speed. Space is nearly a vacuum. Without air, there is no lift generated by the wings.
NO MOTION, NO LIFT
Lift is generated by the difference in velocity between the solid object and the fluid. There must be motion between the object and the fluid: no motion, no lift. It makes no difference whether the object moves through a static fluid, or the fluid moves past a static solid object. Lift acts perpendicular to the motion. Drag acts in the direction opposed to the motion.
ちょっと翻訳すると
揚力はどのようにして発生するのか?
揚力の発生原理について,専門書や基礎的な物理学の教科書,ウェブサイトで, たくさんの説明がありますが,残念なことにその多くに誤解があり間違っています.これまで,揚力の理論は,大きな論争の種であり激しい議論のテーマにされてきました.
揚力は,固形の物体によって,気体の流れが方向を変えられることによって生じます.流れがある方向に方向を変えられると,ニュートンの力学の第3法則(作用反作用の法則)にしたがって,その反対の方向に揚力が生まれます.空気は気体であり,その空気分子は自由に動くことができるので,どの固体面も流れの方向を変えることができます.飛行機の翼においては,上面,下面の両方が,流れの向きを変えるのに役立っています.この流れの方向を変えるという点で,上面を無視することが間違った理論につながります.
流れがなければ揚力は生まれない
揚力は力学的な力です.それは固形物体と流体(液体や気体)との相互関係や接触によって生じます.重力場や電磁場などで,ある物体が物理的接触なしに相互に影響を与え合う,力学的な「場」によって生じるわけではありません.揚力発生においては,固形物体と流体は接触していなければなりません.流体なしに揚力は生まれません.スペースシャトルが宇宙空間で浮遊していられるのは,翼による揚力ではなくその速度に関係する軌道力学によって浮遊しているのです.[地球の引力と遠心力の釣り合いによるもの]宇宙は真空に近い場所です.空気がなければ,翼による揚力発生もありません.
動きがなければ揚力は発生しない
揚力は,固形物体と流体の速度の違いによって発生します.固形物体と流体の間に動きがなければなりません.動きがなければ,揚力は発生しません.静止流体の中を固形物体が動くのかあるいは静止した固形物体周りを流体が動くのかということには大きな違いはありません.揚力は運動の方向に垂直な方向に発生します.抗力は運動の方向と反対の方向に発生します.
NASA的見解はこんな感じでした〜!
飛行機の飛ぶ原理というのは諸説あって沢山語られてきたことが分かります.こういう議論は面白いですね.
次回はロケットの話でもしようかな!
最新の宇宙開発をチェック!
コメント
はじめましていつもブログ楽しく読ませてもらってます!
揚力の発生原理ですが、空気分子の衝突によるものではなく翼周りの循環による発生が正しい説明となります。
詳しくは下記URLで説明されてますので見てみてください。
http://jein.jp/jifs/scientific-topics/887-topic49.html
度々コメントすいません。
ちょっと気になったので補足を。
空気が翼にぶつかり上向きの運動量を得て、揚力を得るというのは完全に間違いとは言えませんが、それは空気の密度が非常に薄い希薄流体においてにしか本質的ではありません。
これに関しては下記のNASAのページと先のコメントで貼ったURLの飛び石説というページに書かれてます。
https://www.grc.nasa.gov/WWW/k-12/airplane/wrong2.html
デイビッドさんも前提知識の無い方に分かりやすく説明するためにこのような説明をされてるとは思うのですが、一応参考までに。
kegeurm様
ご指摘ありがとうございます!!そうなんですよね〜存在することを述べるにとどめたかったのと,循環の説明が簡単ではないのでやめておきました.流れよりボールの方が分かりやすいと思ったんですが,さすがにまずかったですね……笑
もちろんそのページも存じ上げております.本質的でないというのは,旅客機などが飛ぶ高度では運動量云々のみでは揚力の大きさが全く合わないということですよね.全くもってその通りです.始めにスペースシャトルの例を出して誤魔化そうとしたんですが笑笑 再びよく考える機会になり理解が深まりました.ありがとうございます.また馬鹿なこと言ってたらコメントお願いします笑