【流体力学入門】理想流体の基礎方程式の簡単な説明【第1弾】

航空宇宙工学を専攻する東大院生が,流体力学の要点・エッセンスをご紹介するシリーズ!
流体力学を学び始めた学部生や社会人の方にとって,いきなり専門書はちょっと・・というケースは多々あるかと思います.学問においては,概観をしっかりつかんでおくのが何より重要だと思っています.筆者がこれまで実際に学習を進めてきた中でここは!という要点をギュッと詰めました.ただし数式はでてきます!笑 サクッとしているがきちんと流体を知りたい方におすすめです.

今回は,理想流体の理論を展開していく上で重要な基礎方程式についてです.
3つあります.質量保存則,運動量保存則,エネルギー保存則です.今回は定性的な導出をしてみます.
ひとつずつ見ていきましょう.
流れが定常であるとして,下図のような流管を考えましょう.

と,流管を横切る流れは存在せず,流入量=流出量となるから,流量が,流速qと密度\rho,断面積Sの積で表されるので

    \begin{eqnarray*}\rho_Aq_AS_A = \rho_Bq_BS_B\end{eqnarray*}

とかけます.ただし,A,Bを流管のどの地点を選ぶかは任意であるから

    \begin{eqnarray*}\rho qS = const.\end{eqnarray*}

となります.これは,質量保存則であり,連続の式と呼ばれます.

Aから流入する単位時間あたりの運動量とBから流出する単位時間あたりの運動量を考えてみましょう.運動量とは,質量と速度の積の次元を持つベクトル量です.今回単位時間あたりですので,単位時間あたりに流れる質量,すなわち質量流量と速度の積で表せます.AB間のこの運動量の差は,流管内の流れに働く外力の総和に等しくなります.つまり管入部出部でかかる力,加えて管の側壁から受ける力,内部の流体が受ける反力(摩擦など抵抗)

    \begin{eqnarray*} \begin{matrix}&\rho_Aq_A^2S_A-\rho_Bq_B^2S_B\\=&P_AS_A-P_BS_B + PS_x - F\end{matrix} \end{eqnarray*}

ただし上式では下流(AからBの方向)を正として向きを記述しています.S_xは側壁の面積で,一定の圧力Pがかかっているものとしています.Fは反力です.

例えば,非常に理想的な状態を考えて,管入部出部での力のみを考え,側壁は上部で流体には側壁からの力はかからず,外力はかからないものとすれば,

    \begin{eqnarray*} \rho_Aq_A^2S_A-\rho_Bq_B^2S_B=P_AS_A-P_BS_B \end{eqnarray*}

とできます.たとえば,水道管のようなものを考えるとしましょう.水の密度変化はほぼなく\rho_A=\rho_B=\rhoと仮定するとします, 入り口の情報は断面積と圧力のみがわかっていて,出部の情報は蛇口なんかに相当するとして分かるものとすれば,

    \begin{eqnarray*} q_A^2=\frac{q_B^2S_B+P_AS_A-P_BS_B}{\rho S_A} \end{eqnarray*}

のようにして,だいたいの速度のあたりをつけられたりするわけですね.

さて最後は,エネルギー保存則です.

ここでは,いろんな仮定をおきます.でないと計算ができないからですね.まず定常流,そして,非粘性,非圧縮性を考えます.それぞれどういうことかというと,定常というのはすべての点における速度,圧力,密度などが時間的に変化しないことを言います.つまりこの条件を置くと1分後にみても明日みてもこの計算式が成立するってことですね.続いて非粘性とは粘性力が働かないことです.普通は粘性に起因する摩擦なんかが発生して,それによってエネルギーが失われますが,今回は考えません.そして,非圧縮性についてですが,これは,今度は時間的にではなく空間的に,場所が変わっても密度が変化しないということです.流体の運動量変化と管の両端に働く圧力による仕事,重力による位置エネルギーの変化のみを考慮しましょう.

単位質量あたりのエネルギーを考えると,これらの変化の和がゼロとなることがエネルギーの保存を表します.gは重力加速度です.

    \begin{eqnarray*}\frac{1}{2}\left(q_A^2-q_B^2\right)+\left(gz_A-gz_B\right)+\frac{\left(P_A-P_B\right)}{\rho}=0\end{eqnarray*}

これは,

    \begin{eqnarray*}\frac{1}{2}q_A^2+gz_A+\frac{P_A}{\rho}=\frac{1}{2}q_B^2+gz_B+\frac{P_B}{\rho}\end{eqnarray*}

とかけて,AやBは任意に選べるので,

    \begin{eqnarray*}\frac{1}{2}q^2+gz+\frac{P}{\rho}=const.\end{eqnarray*}

となります.これを実はより一般的なベルヌーイの定理と呼びます.この式でさらに位置エネルギーを考えないとすると,

    \begin{eqnarray*}\frac{1}{2}q^2+\frac{P}{\rho}=P_0=const.\end{eqnarray*}

とかけて,ベルヌーイの定理としてよく利用される形になります.なお,左辺の第1項を動圧,第2項を静圧,右辺を総圧と呼んで,速度で表される項が,速度をもつがあるがゆえに生じる圧力であると捉えるのは,はじめは腑に落ちないと思います.たとえば,飛んでいる航空機の翼の前縁付近には,必ず淀み点と呼ばれる箇所が生まれます.その点の圧力を簡単にはこの式で求めることができます.つまり,翼に当たる前の空気の流れの速度と圧力がわかっていれば,淀み点では動圧は存在せず,静圧のみとなりますが,それは空気の流れ中の動圧と静圧の和すなわち総圧になるわけです.添字が0になっていることも多いですがそういう意味があります.反対に,飛行機には,圧力を測定するために機器が淀み点付近についていることが多いですが,総圧がわかるのでこの保存則を使って,流れる空気の密度あるいは速度を測定できたりします.こんなふうに動圧,静圧,総圧は,流体関連でよく出てくる用語になります.

ここまで話を進めてきましたが,重要なことは,どのような仮定が置かれていて成り立つ式なのか,ということです.ベルヌーイの定理で言えば,定常流,そして,非粘性,非圧縮性,考える点の圧力以外の外力は考えない,重力も考えない,といった非常に特殊な条件下で成立するものです.そういったことを意識することで適用可能なのかどうかを判断できることがエンジニアとしては重要ですし,役に立たない知識・学習を減らすことができると思います.

次回以降は,これら基礎方程式のより厳密な導出を説明します.

【流体力学入門】流体粒子の加速度と実質微分【第2弾】

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