この分野,非常にニッチなこともあって,意外とネットで気軽に学習ができるようなサイト・ページがありません.軌道力学に関する記事も上げましたが、今回は姿勢制御・姿勢力学のお話を中心の講座もはじめていきたいと思います.
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宇宙機における制御の目的
宇宙機において制御を行う際にGNCという言葉がよく使われます.それは,以下のようなことです.
- 航法(Navigation): 今の物理状態を知る
- 誘導(Guidance): 目標とすべき物理状態を設定する
- 制御(Control): 目標のために物理状態を維持あるいは変更する
したがって,宇宙機の物理状態といっても様々ありますが,
どこに向かうか,どちらを向いているか
が最も重要な情報になります.
どこに向かうか,は目標とする天体があって,そこに向かうまでの道筋=軌道を調整しなければなりませんし,地球も含めて天体の探査や観測,通信を行うために周期的な軌道に入れてやり維持したいことが多いです.
どちらを向いているのか,は主には電力を得るために太陽電池パネルに太陽光があたるようにしなければなりませんし,ほぼ確実に探査や地球監視で観測機器を持たせることになるのでそれら観測機器を対象に向けるためにどういう姿勢になるかということは重要になります.
したがって宇宙機の制御の目的として,軌道変更・維持を行う軌道制御,姿勢変更・維持を行う姿勢制御が挙げられます.今回は姿勢に関するお話を進めていきます.
宇宙機の姿勢制御
宇宙機の姿勢制御ということですが,完全なる制御というのは現実世界では難しいものです.そのため,宇宙機や衛星の姿勢制御系を構築する際,(姿勢制御に限らずですが)精度要求を定める必要があります.
- 姿勢決定精度: 自身の姿勢をどれくらい正確に把握しているか
- 指向精度: 観測機器を特定の方向に向ける
- 姿勢安定度: 姿勢がどれだけ安定か
例えば,地球観測衛星である「だいち」の姿勢精度要求は,
姿勢決定精度: 度(地上でゆっくり計算する場合)
姿勢決定精度: 度(衛星で即時に計算する場合)
指向精度: 度(センサー視野にあればよい場合)
指向精度: 度(5秒間維持する)
オーダー感,制御の厳しさが伝わりますね.ミッションによってはもっと高い精度になる可能性もあります.
さて,姿勢安定の話が出ましたが,その安定化の方式と,それを達成するための具体的なセンサ・アクチュエータを述べておくと,
- 無制御方式
- スピン安定方式
- 三軸安定方式
- 受動的安定化
などがあります.宇宙開発黎明期の衛星は,スピン安定方式が多いです.また,ロケットは基本的にはスピンを用いて姿勢安定化しながら飛んでいます.
現在圧倒的に主流なのが,三軸安定方式です.2020年12月に地球に帰還予定の,話題の小惑星探査機はやぶさ2ももちろんこれです.バイアスモーメンタム方式,ゼロモーメンタム方式があります.
バイアスモーメンタム方式は,モーメンタムホイールである軸に角運動量をもたせておいて,その軸を基準に安定化させるものです.自転車を考えるとわかりやすいですが,早く進むほどタイヤが早く回転し角運動量をもつので,その回転軸と直交する軸まわりの回転が起こりにくくなります.そのため姿勢が安定化されて,自転車は倒れずに進むことができるわけです.
次に,ゼロモーメンタム方式ですが,これは,衛星の角運動量が常にゼロとするような方式で,内部にジャイロを有していて,外部から力を受けてある回転が生じると,その回転を打ち消すように内部のジャイロが回転速度および角運動量をもちます.現在はこの方式が一番多いです.理由は高精度を実現できるからです.しかし,問題点もあって,なんどもこの回転の吸収を行うことでジャイロが回転の限界をむかえてしまうため,定期的に別のトルクを発生させるアクチュエータを用意しておいて,ジャイロの回転を解消するアンローディングと呼ばれる作業が必要になります.
イレギュラーどころでいくと,最近のものでもJAXAが2010年に打ち上げたソーラーセイル実証機IKAROSは主にスピン安定です.ただし,こちらは膜面を保持するためという理由がメインですが.
最後の受動的安定化は,大学レベルの超小型の衛星やCubesatであれば使われていると思います.地球周りでの環境外乱を逆手にとって安定化する方法です.衛星の重心をブームなどで移動させ振り子のような要領で安定化させる重力傾斜安定方式や内部に磁石を入れておき,磁気力によって磁気安定方式があります.
今回は,宇宙機の姿勢制御について概観しました.次回は数式が多くなりそうですが,姿勢を記述する上で重要なキネマティクスの概念を紹介しようと思います.
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