【軌道力学入門】二体問題における保存量【第2弾】

航空宇宙工学を専攻する東大院生が,軌道力学の要点・エッセンスをご紹介するシリーズの第2弾! 軌道力学を学び始めた方にとって,専門書はハードルが高いですよね・・筆者がこれまで実際に学習した中でここは!という要点をギュッと詰めました.サクッと,でもきちんと学びたい方必見です.

さて今回は第2弾です.

第1弾はこちら.

【軌道力学入門】二体問題の基本方程式、軌道要素【第1弾】

二体問題においては,保存量が存在します.

ひとつは,力学的エネルギー,もうひとつは,角運動量です.

二体問題の支配方程式は以下でした.

    \begin{eqnarray*}\overrightarrow{\ddot{r}}+\frac{\mu}{r^3}\overrightarrow{r}=\overrightarrow{0}\end{eqnarray*}

$\overrightarrow{r}$が,中心天体に対する周回天体の位置ベクトル,rはその大きさすなわち距離です.\muは,中心天体を中心とする重力定数で,中心天体の質量と万有引力定数の積で表されます.地球が中心なら,地心重力定数なんてよんだりします.ちなみに,\mu_{earth} = 3.986004418\times 10^{14} $m^3$/$s^2$程度です.

さて,この式を用いて,保存量を見つけ出しましょう.

力学的エネルギーの保存

ではまず,天下り的ですが,$\overrightarrow{\dot{r}}$を,両辺に内積的に掛け算します.

    \begin{eqnarray*}\overrightarrow{\dot{r}}\cdot\overrightarrow{\ddot{r}}+\frac{\mu}{r^3}\overrightarrow{\dot{r}}\cdot\overrightarrow{r}=\overrightarrow{0}\end{eqnarray*}

ここで,\overrightarrow{a}\cdot\overrightarrow{\dot{a}}=a\dot{a}となることを利用します.

(この式が成り立つのは,a=\sqrt{a_x^2+a_y^2+a_z^2}の微分が,

    \begin{eqnarray*}\dot{a}&=&\frac{a_x \dot{a_x}+a_y \dot{a_y}+a_z \dot{a_z}}{\sqrt{a_x^2+a_y^2+a_z^2}}\\&=&\frac{\overrightarrow{a}\cdot\overrightarrow{\dot{a}}}{a}\end{eqnarray*}

となることより明らかです.)

    \begin{eqnarray*}\dot{r}\ddot{r}+\frac{\mu}{r^2}\dot{r}=0\end{eqnarray*}

このようにかけます.

さらにここで,

    \begin{eqnarray*}\frac{d}{dt}\left(a^2\right)=2a\dot{a}\end{eqnarray*}

であったことと,

    \begin{eqnarray*}\frac{d}{dt}\left(\frac{1}{a}\right)=-\frac{\dot{a}}{a^2}\end{eqnarray*}

を考えると,

    \begin{eqnarray*}\frac{d}{dt}\left(\frac{1}{2}\dot{r}^2-\frac{\mu}{r}\right)=0\end{eqnarray*}

を得ます.

さて,$\dot{r}=v$としましょう.

上式はつまり,カッコ内が時間変化に対して一定,すなわち定数であることを表しているので,

    \begin{eqnarray*}\frac{1}{2}v^2-\frac{\mu}{r}=C\end{eqnarray*}

となって,これが,力学的エネルギーの保存を表しています.別の流儀では,以下のように書き表すことも多いです.

    \begin{eqnarray*}v^2-\frac{2\mu}{r}=C\end{eqnarray*}

角運動量保存

続いて,今度は,$\overrightarrow{r}$を,両辺に外積的に掛け算します.

すると

    \begin{eqnarray*}\overrightarrow{r}\times\overrightarrow{\ddot{r}}+\frac{\mu}{r^3}\overrightarrow{r}\times\overrightarrow{r}=\overrightarrow{0}\end{eqnarray*}

となります.

同じベクトルの外積は定義上0ベクトルなので,

    \begin{eqnarray*}\overrightarrow{r}\times\overrightarrow{\ddot{r}}=\overrightarrow{0}\end{eqnarray*}

となります.

ここで,

    \begin{eqnarray*}\frac{d}{dt}\left(\overrightarrow{r}\times\overrightarrow{\dot{r}}\right)=\overrightarrow{\dot{r}}\times\overrightarrow{\dot{r}}+\overrightarrow{r}\times\overrightarrow{\dot{r}}\end{eqnarray*}

であるから,

    \begin{eqnarray*}\frac{d}{dt}\left(\overrightarrow{r}\times\overrightarrow{\dot{r}}\right)=\overrightarrow{0}\end{eqnarray*}

であることがわかります.

これは,位置ベクトルと速度ベクトルの外積の結果生じるベクトル=角運動量ベクトルが,時間変化しないことを表しています.

したがって,角運動量ベクトルが保存することが言えます.

これは,ちょうど高校物理で習う,ケプラーの第二法則,面積速度一定の法則に相当します.

まとめ

 

今回は,2体の軌道運動で重要な保存則を運動方程式から導出しました.

この導出を理解することにどれほどの価値があるか,と問われると困りますが笑

ベクトルのテクい計算や微積分がいくつか出てきました.ベクトルについては,三次元程度であれば,簡単に成分計算で確認できるので,練習がてら計算してみてください!

微積もこの辺りはすんなり使いこなせないと,やはり,応用工学は苦しいです.数学的な正当性の理解は後回しでも最悪良いので,使いこなせるようにしておきましょう.

次は,ケプラーおじさんが,ニュートンの力学が成立する前から,惑星の運動ってこうなんじゃね?って定式化してたもの=飛行軌道方程式が,やはり正しいんだということをニュートン力学から導いてしまいましょう.

【軌道力学入門】飛行軌道方程式の導出【第3弾】

 

 

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