【軌道力学入門】摂動【番外編】 | デイビッドの宇宙開発ブログ

【軌道力学入門】摂動【番外編】

軌道力学関連で摂動(Perturbation)についての紹介です.正直ニッチすぎて誰の役にも立たなそうなんで,ぼやきかつ備忘メモです.

地球を周回する衛星は軌道上で,摂動力(Perturbation Force)を受けるため,ケプラー軌道のような 理想的な軌道を飛び続けることはできない.

主な摂動力

主な摂動力には以下のようなものがあります.

  1. 地球からの重力:地球は完全な球形ではなく,赤道部分が膨らんでいる扁平な形状をしています.このため,重力ポテンシャルに偏りが生じ,衛星の軌道に影響を与えます.
  2. 太陽・月からの重力:これらの天体からの引力も,地球周りの衛星軌道に影響を及ぼします.他惑星からも厳密には力を受けますが,これらに比べると小さいので無視できます.
  3. 地球大気による抗力:低軌道を飛行する衛星は,薄い大気層を通過する際に抵抗を受け,速度が減速します.
  4. 太陽輻射による力:太陽からの光子が衛星に衝突することで発生する微小な力です.
  5. 相対論効果:アインシュタインの相対性理論による時間の遅れと空間の曲がりが,衛星の軌道に微妙な影響を与えます.

    摂動の分類

    摂動は大きく分けて「周期摂動」と「永年摂動」に分類されます.周期摂動はその名の通り周期的に発生し,衛星の一周回周期に基づいています.一方,永年摂動は時間が経過するにつれて効果が蓄積していく特性を持ちます.

    摂動による軌道要素の変化には,周期摂動と,時間の増大に伴って発散する永年摂動(secular perturbation)がある.

    前者は更に短周期摂動(short period perturbation)と長周期摂動(long period perturbation) に分けられる(衛星の地球周回の周期を基準とする).

    これら摂動の影響の大小は軌道高度によって変化す る. 短周期摂動は比較的大きいにも関わらず,周期が一周期以下と短いため,平均的な軌道への影響は微小であ り,ミッション軌道の保持の観点からは邪魔であり,ミッション運用や軌道設計では,短周期摂動を取り除 いた平均軌道要素を使用することが多い.

    TLE(Two line elements)には平均軌道要素が記されている.

    摂動を考慮した場合の軌道解析の基礎的な問題としてあげられるのが軌道伝播の問題である.

    摂動解析の方法

    摂動の解析には以下の三つの主要な方法があります.

    • 解析的方法(analytical method):軌道要素を時間関数で展開し,任意の時刻での摂動を計算します.一般摂動法(general perturbation)がこのカテゴリに入ります.
    • 数値的方法(numerical method):運動方程式を数値的に解くことで,高精度の軌道を生成します.特別摂動法(special perturbation)がここに該当します.
    • 準解析的方法(semianalytical method):解析的と数値的手法の良い点を組み合わせた方法です.周期的な摂動を平均化して無視し,主に平均近点角を使用します.

    一般摂動法では,摂動を元期における軌道要素で時間関数において展開しておいて,任意の時刻の摂動を計算するものであり,特別摂動法に比べ計算時間は短くなるが,精密な軌道を計算しようとすると摂動の時間関数展開が非常に複雑かつ困難になる.特別摂動法は,軌道生成の各時間ステップで各摂動力の大きさを適当なモデル,アルゴリズムで計算し,これを衛星の運動を表す運動方程式に代入して,運動方程式を数値的に時間積分することによって軌道生成を行うもので,高精度の軌道生成が可能である.

    準解析的手法においては,主に平均近点角を用いた平均化を行う. そのため,短周期摂動は無視できる特徴がある.

    摂動の数学的表現とその応用

    宇宙機位置における地球の重力ポテンシャルU は,その点の球座標(r,\varphi,\lambda)で次のように球面調和関数によって展開表示される.

    (1)    \begin{eqnarray*} U&=&\frac{\mu}{r}\left[1 - \sum^{\infty}_{n=2} \left(\frac{R_e}{r}\right)^{n}J_n P_n\left(\sin{\varphi}\right)- \sum^{\infty}_{n=2}\sum^{n}_{m=0}P_{nm}\left(\sin{\varphi}\right)\left(C_{nm}\cos{m\lambda}+S_{nm}\sin{m\lambda}\right)\right] \end{eqnarray*} \begin{eqnarray*} P_{nm}\left(x\right)&=&\frac{1}{2^{n}n!}\left(1-x^2\right)^{m/2}\frac{d^{n+m}}{dt^{n+m}}\left(x^{2}-1\right)^{n}\\ P_{n0}\left(x\right)&=&P_n\left(x\right) \end{eqnarray*}

    \muは地球の重力定数, r=||\vec{r}|| は原点から宇宙機までの距離, \varphiは宇宙機の地心緯度(geocentric latitude), \lambdaは経度(right ascension), R_eは地球の平均赤道半径, P_nはルジャンドルの多項式, P_{nm}はルジャンドルの陪関数,J_n, C_{nm}, S_{nm}は無次元係数である.特に第一項は理想2体問題のポテンシャル関数である.加速度a_dは,太陽や月による重力,太陽光による太陽輻射圧,宇宙機からの漏出ガスによる力,地球の潮汐力,軌道変更時のスラスタ推力などの摂動力で生じる.

     

    C_{nm}, S_{nm}は地球の質量分布および形状に関連する.Tableに地球の場合の無次元係数の値を示す.これらは,米国の周回衛星(TOPEX/Poseidon)などの軌道摂動計測データ,海洋表面硬度測距データおよび地上重力計測データをもとに推定されたNASAのJGM-2(Joint Gravity Models-2)モデルから抜粋されたものである.

    地球が自転軸に対象な回転楕円体であると仮定する.J_4を含む項までの重力ポテンシャルの式は,

    (2)    \begin{eqnarray*} U &=&-\frac{\mu}{r} \left[1-\sum^{\infty}_{n=0}{J_n\left(\frac{R_e}{r}\right)^{n}P_n\left(\sin\varphi\right)}\right]\\ &=&\mu\left[1+\frac{J_2R_{e}^2}{2r^3}\left(1-3\sin^2\varphi\right)\\ &&+\frac{J_3R_{e}^3}{2r^4}\left(3-5\sin^2\varphi\right)\sin\varphi\\ &&-\frac{J_4R_{e}^4}{2r^5}\left(3-30\sin^2\varphi+35\sin^4\varphi\right)\right] \end{eqnarray*}

    ここで,球面三角法の正弦定理より, \sin\varphi=\sin i \sin u\ (u=\omega+\nu)となることを用いて式変形すると,

    (3)    \begin{eqnarray*} R &=&-U-\frac{\mu}{r}\nonumber\\ &=&\mu\mbox{[}\frac{3J_2R_{e}^2}{2a^3}\left(\frac{a}{r}\right)^3\left(\frac{1}{3}-\frac{1}{2}\sin^{2}i+\frac{1}{2}\sin^{2}i\cos 2u\right)\nonumber\\ &&+\frac{J_3R_{e}^3}{2a^4}\left(\frac{a}{r}\right)^4\left\{\left(\frac{3}{2}-\frac{15}{8}\sin^{2}i\right)\sin u+\frac{5}{8}\sin^{2}i\sin 3u\right\}\sin i\nonumber\\ &&-\frac{35J_4R_{e}^4}{8a^5}\left(\frac{a}{r}\right)^5\left\{\frac{3}{35}-\frac{3}{7}\sin^{2}i+\frac{3}{8}\sin^{4}i+\sin^{2}i\left(\frac{3}{7}-\frac{1}{2}\sin^{2}i\right)\cos 2u+\frac{1}{8}\sin^{4}i\cos 4u\right\}\mbox{]} \end{eqnarray*}

    u = \omega+\nuを代入し,加法定理により展開を行い,平均化を行うと,

    (4)    \begin{eqnarray*} \overline{R}&=&\frac{1}{2\pi}\int^{2\pi}_{0}{RdM}\nonumber\\ &=&\mu\mbox{[}\frac{3J_2R_{e}^2}{2a^3}\left(1-e^2\right)^{-\frac{3}{2}}\left(\frac{1}{3}-\frac{1}{2}\sin^{2}i\right)+\frac{J_3R_{e}^3}{2a^4}e\left(1-e^2\right)^{-\frac{5}{2}}\sin i\left(\frac{3}{2}-\frac{15}{8}\sin^{2}i\right)\sin\omega\nonumber\\ &&-\frac{35J_4R_{e}^4}{8a^5}\left\{\left(1-e^2\right)^{-\frac{7}{2}}\left(1-\frac{3e^2}{2}\right)\left(\frac{3}{35}-\frac{3}{7}\sin^{2}i+\frac{3}{8}\sin^{4}i\right)+\frac{3e^2}{4}\left(1-e^2\right)^{-\frac{7}{2}}\sin i\left(\frac{3}{7}-\frac{1}{2}\sin^{2}i\right)\cos 2\omega\right\}\mbox{]}\nonumber\\ \end{eqnarray*}

    が得られる.この式は,順解析的手法による軌道伝播計算に用いられる.

    最近はなんでもかんでも数値積分で計算量が大変ですが,ここまで複雑な式を書き下せば,高速計算を実現できる(本当か?)みたいです.ただこれは重力の摂動項がわかっている天体に限られて,基本的には地球や火星などよく探査されている天体だけなんですよね.

    まとめ

    今回は摂動についてざっくり書きました.摂動は,衛星軌道を設計し,予測する上で無視できない要素です.適切に計算に取り入れることは,衛星ミッションを成功させる上で不可欠ですね!

     

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